うみのこ通信

日々の断片

恋する福田平八郎

大阪に住む恋人に会いに行ったついでに、大阪中之島美術館に行った。福田平八郎展が目当てだ。ついでというより去年から目をつけていた。

同時開催していたモネ展は入場するのに大行列。福田平八郎展はメインの漣が展示休止中のせいかかなり空いていた。長いエスカレーターで会場に向かう中、モネ展の大行列を見て「モネが好きなんじゃなくて、美術が好きな自分が好きなんでしょう」と心の中で罵詈雑言を言う。

第1章は手探りの時代という題もあって、ザ日本画、洋画っぽいもの、緻密に描ききったもの、かわいい家鴨ちゃんなど、様々な技巧を実践しているようでよかった。中でも鶴の絵は頭部、目、嘴の塗り込みが細かく、引き込まれた。

白い孔雀と紫陽花を描いた作品は、紫陽花は淡く雑多に、孔雀は様々な白を使って羽が描き込まれ、中心に位置した孔雀が見下ろすように立っていてかっこいい。

そこから水のコーナー。漣は残念ながら複製。漣の下絵のような作品、水の写生帳も特に良い。

梅と鳥の取り合わせも何個か出てきた。日の出を描いた作品は、真オレンジの円が大胆に描かれていて、シンプルだけど、とにかく良かった。富士山で見た朝焼けを記憶の底から引っ張り出した。

梅は、梅の花のコロンとした可愛さをよくわかっている。鳩などの鳥は、羽の色のグラデーションが美しく、鳥の可愛さをよくわかっている。

福田平八郎の絵の前に立つと、心の中の何かが共鳴する。

この絵が好きではなく、この人の絵が好き、と思えたのは初めてかもしれない。大分の巡回も追いかけたい。

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美味しかったお好み焼

汚い部屋で眠る

床にものが散乱している。新書、ヘアクリーム、大学時代の板書したルーズリーフの束、辞書、ベトナムで買わされた巾着、その他もろもろ。机は何かの書類、ぬいぐるみ、パソコン、iPad(埋もれてる)、椅子にはマフラー、洗濯してないセーター、クッション。

新居に持っていきたい本を段ボールに詰めているうちに、こうなった。一度こうなるともうどこから手をつけていいのかわからなくなる。片付けなくてはならないと、わかっているのにいざ片付けようとすると手が止まる。明日片付けようと思って、床のわずかな隙間をスリッパで踏んでベッドに辿り着き、布団の中でこれを書いている。

持っていく本を選ぶ時、あれもこれもと思う一方で、もうどれもいらないのではないかという気にもなる。本当はもう、凪のお暇の凪みたいに、身一つで出ていきたいのかもしれない。

暴風雨の日

寝る間際、「子ども子育て支援金」という制度が出来そうであるニュースを見て、驚いた。年収200万の人間から徴収していき、将来的には月額が上がる可能性があるという。

「子供のため」といえば何でも済むと思いやがって。ふざけんな。

月80円とかならわかる。いつも水筒に入れて持っていくお茶がなくなって、仕方なく近くの薬局で買う最安のお茶1本を我慢すれば、払える。

でも、月200円は無理だと思う。まして350円なんて。水道も電気も節約したお金が全部そこに持っていかれる。よその子どもの前に自分が干からびるわ。

年収300万いかない、若い世代のこと、わかってんのかな、あいつら。

旅行2

高校時代の友人と湯河原に一泊した。未読の本を1冊持って行ったが、宿に読みたかった漫画があってずっと読んでいた。

夜、窓を開けると川の音がした。閉めても、窓の近くに立っているとその音がずっと聞こえる。朝は、鳴き方の練習をするウグイスの声がずっと聞こえた。

家に帰ってから、「湯河原は熱海の隣で、温泉もあるのに観光客が少なくて可哀想」と言ったら、母に「文豪が来るのは人気がなくて山の中だから、人気が出たらダメ」と言われて納得した。

友人の恋人が、友人の親に会う前に私に会うのが筋だと思っているらしいと聞いて面白かった。1次面接する日が待ち遠しい。

母の髪を洗う

先日母が骨折した。肩を。

右手を白い三角巾で包まれた様子はドラマとかでよく見るアレそのもので、現実感が未だにない。

1週間経ってもあまり変化がないので病院に行ったら、全然変わってないという。全治4週間といわれたのに、1/4の進捗が0なわけだ。放っておくと3ヶ月はかかるらしく、彼女は手術を決意した。

退院して、今日、母が髪を洗ってほしいという。ボルトを仕込んだ右肩を今は濡らすことができないらしい。

洗面台に頭を突っ込む形で、頭にお湯をかける。月一で髪を染めているけれど、生え際に白が目立った。母は髪が多いけれど、長い髪を全部前におろすと、薄くて、数日前に見た祖母のように、うすくて、小さいように感じた。

髪全体にお湯をかけるのも、シャンプーするのも難しい。おでこのあたりに手を持ってくると目に指が当たらないかハラハラしたし、耳の横はお湯で湿らすのが難しかった。

洗いながら、寂しいような、切ないような気持ちになった。

最後の日

朝から強い風と雨。通勤列車は座れない。

挨拶用のお菓子が、自分の横幅より大きくて、持ちづらかった。

就業時間の辻褄を合わせるために、いつもより30分早い電車。会社の最寄り駅についたら、いつもの倍以上人がいた。すし詰めのエスカレーターを上る。

 

駅の外は強い雨と風。最終出社日とは思えないほど天気が悪い。折り畳みの傘を差していても、コートの右手側がほんの5分でびしょびしょになった。

会社は、朝早くで人が少ない。総務に挨拶用のお菓子を預ける。

 

昼、同僚にランチに誘ってもらう。外に出ると、雨がやんで、風がやんで、少し気温が上がった。おいしい海鮮丼の店に入る。いつもならすごく混んでいるのに、雨がひどいせいか、年度末のせいか、人が少なかった。鯛飯を食べた。おいしかった。

 

午後、納品。先輩と一緒に行く。先輩も私ももう辞めるから、最近暇。気楽に話をしながら客先に向かい、納品物を受け渡した。5分で終わった。

電車の中で、先輩とアイスが食べたいねという話になり、帰社前にコンビニに寄った。クーリッシュをおごっていただいた。

 

会社に帰って、クーリッシュを手に取ると、思いのほか柔らかくなっていた。吸い込むと、にょろりとしたバニラアイスが小さな吸い込み口から出てきて、口の中で甘く溶けた。

 

夕方、月の締め作業などが終わり、社員証などを返す。いろいろな人に「お世話になりました」と言った。お世話になった人に、お礼を言えてよかった。

 

「退職のご挨拶」メールも、自分が送信する日が来るとは思っていなかったけど、歴代の退職メールをうまく編集して送信した。全社員に放たれるのかと思うと緊張した。

 

会社を出て、後輩と会社近くにご飯を食べに行く。後輩行きつけのお店。「退職祝い」として、後輩がサプライズでプレゼントをくれた。嬉しかった。

 

仕事は嫌だったけど、たくさんのものをもらった。会社の雰囲気も別にそこまで好きじゃなかったけど、嫌いでもなかった。人は好きだった。恵まれた。

 

でも、もう二度と来ることはない。