うみのこ通信

日々の断片

あの時のピアノの音

 昨日の夜、録画した朝イチを見ていたら、藤田真央という人が出ていた。ピアニストらしい。

 スタンカラーの黒いシャツに子供みたいに大きなボタンが付いた服を着て、彼はピアノの前に座った。暖かなスポットライトが彼とピアノを照らす中、ぼんやりテレビを見ていると、高いピアノの音がゆっくり、ほんやりと鳴り出した。

 彼がピアノを好きというより、ピアノが彼を好きという感じだった。彼が柔らかくピアノを撫でれば甘い音を返し、鋭く叩けば絶叫するように返す。

 ピアノの音をずっと聴いていると、物語の中に入ったみたいで、柔らかいだとか絶叫しているとかという表現では足りなくなる。この感覚を表した本を知っている。恩田陸の『蜜蜂と遠雷』だ。

 数年前に読んだ時、終盤の方のピアノ演奏シーンの描写に飽きてしまい、字面だけをまで追うようにして読了した。「良いピアノの音」を聴いたことのなかった私は、作中で表現される演奏中に現れる「物語」がいまいちピンと来なかったのだ。

 藤田真央の音を聴きながら、「蜜蜂と遠雷の風間塵みたいな人だなぁ」と思って、なんとなく彼の名を調べたら映画版の風間塵の演奏を担当?していて、アルバムまで出ていた。

 人気作の映画版として侮って見ていないが、彼の音を聴くために観たいと思った。